世帯の分離という行為(後編)

前回からの続きです。
 
それでは、「世帯」とは何なのだろうか?
法律的にいうと、「居住と生計をともにする社会生活上の単位」である。
「居住」と「生計」の2つの要件があるので、夫婦でも別居していれば別世帯となるし、赤の他人でも一緒に住んでいて生計も一緒であれば同世帯といえる。
「世帯」は市町村役場に住民票を届け出ることにより決定する。
同世帯にすることも、別世帯にすることも、書類1枚で簡単にできてしまうのだ。
平成17年10月に、介護保険施設の「居住費(滞在費)」「食費」が全額自己負担となった際、施設側が危惧したのは、入居者が減る、すなわち退去者が増えることであった。
反対に本人や家族が危惧したのは、自己負担額が大幅にアップすること。
この両者の危惧を解決する方法が、「世帯の分離」なのである。
ケアマネジャー、相談員等が、法律と制度の隙間を利用して考案した手法である。
あっという間に全国に普及し、今や介護保険施設の入居者は1人世帯の方ばかりだ。
しかし、この手法はどうだろうか?
もともと、「居住費(滞在費)」「食費」を全額自己負担としたのは、施設介護と在宅介護で自己負担額に大きな開きがあったからである。
ホテルコスト、食事代は、どこにいても当然必要なものであるため、保険を利用できるのはおかしいというのは当然の理論だ。
しかし、どうしても家族収入が少ない方のために、「利用者負担段階」を作り自己負担限度額を定めたのであるが、この手法を用いられるとほぼ全員のための制度となってしまう。
これでは、介護保険財政は悪化する一方である。
今がよければそれでよい、という考え方は非常に危険である。
そのツケは、必ず近い未来に具体的な形で返ってくる。
介護保険料のアップ、消費税のアップ、自己負担額のアップ。
これが繰り返されれば、介護保険制度が利用しにくい制度となるだけでなく、制度そのものの崩壊につながる。
高齢者の自尊心を保ち、家族の負担を軽減するための介護保険制度。
この高尚な制度を、濫用によって、崩壊に向かわせてはならない。
サービスは無料ではないし、無料からは何も生まれない。
適切な費用は負担し、負担に応じてサービスの質を高め、介護保険制度をよりよいものにしていってほしい。
 
尾崎総合企画
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